学会の活動

日本広報学会賞

概要Outline

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2017年度(第12回)日本広報学会賞決定

2017年度は第12回となるが、本学会会員が2016年4月1日から2017年3月31日までに公刊した図書・論文で自薦、他薦で応募した作品に加えて『広報研究』第20号収録の論文を候補作品とした結果、図書6点、論文10点を選考対象とすることにした。なお、募集の締め切り日は2017年6月20日である。

2017年度学会賞審査委員会は、第1回委員会を7月13日に開催し、昨年度同様の審査方針にて選考することとして作品の読み込みに入った。第2回委員会を10月16日に開催し、各委員が個別に提出した評価表に基づいて慎重に審議を行い、以下の通りに決定した。理事会の承認を経て、11月18日の第23回研究発表全国大会の冒頭で発表し受賞者の表彰を行った。

審査結果

学術貢献賞

[著書]河炅珍著
「パブリック・リレーションズの歴史社会学 
- アメリカと日本における<企業自我>の構築」
(岩波書店 2017年1月25日)

優秀研究奨励賞

該当作品なし

研究奨励賞
  • [論文]国枝智樹著
    「世界の広報史と日本 -比較広報史研究の知見と意義」

    (「広報研究」第21号2017年3月)
  • [論文]榊原康貴著「箱根駅伝優勝による大学評価への影響について  -世間の誤解と広報視点からの課題」
    (「広報研究」第21号2017年3月)
教育・実践貢献賞

[著書]河西仁著
「アイビー・リー -世界初の広報・PR業務」
(同友館 2016年10月30日)

受賞作品の講評

学術貢献賞講評

河炅珍著
「パブリック・リレーションズの歴史社会学 -アメリカと日本における<企業自我>の構築」

本書は、PRが広告やプロパガンダと異なり他者との双方向の関係性を内包していることに注目し、PR主体が外部や組織内部の他者とのコミュニケーションにより、<企業自我>を発見し法人格を形成すると主張している。
三部から構成される本書は社会学の視点に立ち、第一部で理論的考察を行った後、第二部において、20世紀前半のアメリカにおける発展のプロセスを考察し、第三部では戦後日本でのPRの歴史を跡付ける中から、広告やプロパガンダに先立ち独自の領域として発展したアメリカと、GHQ等により導入されたもののマーケティングの下位機能として扱われてきた日本のPRの違いが浮かび上がってくる。
国内外の膨大な資料を<企業自我>の概念を手がかりにスタディしまとめ上げた力量は圧倒的であり、知的興奮を与えてくれる。PRの定義については多様な見解がありうるが、その一つの視点として充分に学際的議論のテーマとなりうるだろう。
惜しむらくは、戦後の導入期に続く日本企業にとってのPRの検討が東電を巡るPR映画とPR誌の分析にとどまっている。高度成長前期には多様なPR活動が展開されるし、更に時代を下ればCI計画等著者の主張を補強しうる様々な動きも存在している。今後のより広範な検討を期待したい。
いずれにせよ、学術貢献賞に求められる「広報および隣接諸科学の研究において顕著な貢献があると認められた作品」と評価できる。久しぶりの学術貢献賞の登場を喜びたい。

研究奨励賞講評

国枝智樹著
「世界の広報史と日本 -比較広報史研究の知見と意義」

世界各国における広報史の研究は自国とアメリカの記述にとどまり、国際的広がりは認めがたかった。昨今、多くの国の広報史を横並びに比較研究しようとの動きがイギリスを中心に広がりつつある。
本作品は、この動きを継続的にウォッチングしている筆者が、現時点での知見を平明にまとめたものである。
引用文献の広がりが一部に限られ、日本の広報史についての独自の見解に乏しいこと等の課題を抱えているが、今後の一層の研究の深化を期待したい。

榊原康貴著
「箱根駅伝優勝による大学評価への影響について-世間の誤解と広報視点からの課題」

大学スポーツが受験志願者の増減にいかなる影響を与えるかを、箱根駅伝の事例に基づき検討している。一般的な予想と異なり、駅伝の優勝は志願者増加に結びつかず、むしろ学部開設等の教育改革の影響が大きいという結論であった。
筆者は大学での広報実務に携わっており、学内向けレポートという性格も併せ持っていると思われるが、データを丁寧に取り扱っており、論理的にも破綻がない。
当学会では実務と研究の融合を標榜しているが、本作品はその好事例とみなすことができよう。
本作品は、駅伝の優勝と志願者増減に焦点を当てているが、スポーツ庁や経済産業省が大学スポーツの見直しをすすめる中、大学ブランド価値を高め、内部のロイヤリティやプライドを向上させるなど他の効果も期待できよう。
今後の幅広い研究を期待したい。

教育・実践貢献賞講評

河西仁著 
「アイビー・リー -世界初の広報・PR業務」

アイビー・リーはPRエージェンシーの先駆者として知られている割には、その業績の詳細に触れる機会は少ない。本書はリーの人物像と活動を平易に描いており、特に広報初学者にとって親しみやすくわかりやすいと思われる。
単なる評伝にとどまらず、現在の文脈でリーの生涯を見つめ直したところに本書の特色がある。ステルス・マーケティングなど今日のPRが抱える課題が当時も同様に課題であったことも明らかになってくる。またナチスドイツとの関係などネガティブな側面も扱っていることにより、バランスの良い作品に仕上がっている。