学会の活動

日本広報学会賞

概要Outline

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2015年度(第10回)日本広報学会賞決定

2015年度は、本学会会員が2014年4月1日から2015年3月31日までに公刊した図書・論文で自薦、他薦で応募した作品に加えて『広報研究』第19号収録の論文を候補作品とした結果、図書1点、論文8点を選考対象とすることにした。なお募集の締め切り日は2015年6月15日である。

2015年度学会賞審査委員会は、第1回委員会を6月30日開催し、昨年度同様の審査方針にて選考することとして作品の読み込みに入った。第2回委員会は8月26日に開催し、各委員が個別に提出した評価表に基づいて審査を行ったが、評価が分かれた作品もあり慎重に審議を行った。
審議結果は理事会の承認を経て以下の通りに決定するとともに、9月11日の第21回研究発表全国大会の冒頭で発表し受賞者の表彰を行った。

審査結果

学術貢献賞

該当作品なし

優秀研究奨励賞

該当作品なし

研究奨励賞

[論文]野口将輝著「佐賀県武雄市と北海道小樽市のFacebook広報との比較研究」
(「広報研究」第19号2015年3月)

教育・実践貢献賞

[著書]伊吹勇亮・川北眞紀子・北見幸一・関谷直也・薗部靖史著
『広報・PR論 パブリック・リレーションズの理論と実際』
(有斐閣2014年9月)

受賞作品の講評

研究奨励賞受賞作品の講評

野口将輝著
「佐賀県武雄市と北海道小樽市のFacebook広報の比較研究」
(「広報研究」第19号2015年3月)

近年、活発化している行政広報におけるFacebook利用について、「シビックプライド」という概念を新たに援用しつつ、ソーシャルメディアの可能性について論じ、さらに地域における統治パフォーマンスに関する理論につなげて分析している点は大いに評価したい。
本論文に関してとくに注目したのは、2014年度研究奨励賞を受賞した伊藤直哉氏の論文「自治体広報をどのように行うべきかー佐賀県武雄市のFacebook広報評価を中心として」において採用された設問の「シビックパワー」と「シビックプライド」についての認識が混在している点に着目して指標を再構成し、「シビックパワー指数」を作成して武雄市の調査結果を再分析したプロセスであり、それをベースに市民の意識・行動の変化ならびにメディア効果の測定を試みている点であった。さらに新たに、Facebookの一般的活用を行っている小樽市を調査対象に加え、この2市を広報視点から比較分析するという研究手法についてであった。
この点ではとくに、伊藤氏論文でも採用された武雄市データを再分析するという点に関して、同一データを活用した研究に再び賞を与えることの是非を問う意見もあった。しかし同一データであってもそれぞれの視点から分析することは、従来から様々な研究分野で行われてきたことであり、新しい視点や切り口での分析・研究が行われている限りにおいて、新たな研究として認められている点を考慮し、授賞を排除するものではないという結論に達した。
また本論文が指摘している、パットナムが提起した社会関係資本モデルが、統治パフォーマンスにどのように寄与するかについては、多くの研究が待たれるところであるが、今回の実証調査でその可能性の萌芽が示されていることは誠に意義が深いと考える。ただ本論文自体は、シビックプライド゙が社会関係資本へどの程度寄与するのか、その入口での問題提起である。論文中でも自ら指摘されているが、「Facebookページ活用の程度」という独立変数と、「社会関係資本」「シビックプライド」「シビックパワー」を従属変数として分析が行われているが、その関係性については逆方向であるという可能性も指摘されており、この点について引き続き研究を進められることを期待したい。
これらの要素を考慮した上で論文の内容を精査した結果、野口氏の研究は研究奨励賞にふさわしいという結論に達した。

教育・実践貢献賞受賞作品の講評

伊吹勇亮・川北眞紀子・北見幸一・関谷直也・薗部靖史著
『広報・PR論 パブリック・リレーションズの理論と実際』
(有斐閣2014年9月)

本作品は、第1部において、一般にも理解しやすい広告・宣伝販促活動と広報・PR活動との違いを定義のみならず歴史的事実を通じて明らかにし、この活動の前提となるステークホルダーとの対応や組織の社会的責任の位置づけ、組織のレピュテーション構築の課題など、組織(企業)経営における位置づけを記述している。その上で、広報・PR組織と人材、業務構造、実務の枠組みについても触れている。インターネットやIR、社会貢献、災害時などの諸課題に対する広報実務について記述している点も評価できる。とくに災害広報は執筆者の専門領域にも関わる内容であり新規性は高い。
また実用的な面でも、全体が15章で構成されており、大学の授業回数にも対応しているほか、各章の冒頭に身近な話題・事例を配置して関心を高める工夫や、各章末に課題やブックガイドを置いてより深い学習にも活用できるようにしている。
すでに本著は、京都産業大学、埼玉大学、大正大学、東洋大学、南山大学、立教大学大学院をはじめとする多くの大学の教科書としてすでに採用されている実績もあり、広報教育への貢献度は高いと言える。広報・PRを初めて学ぼうという初学者だけでなく、改めて学び直そうという実務者にも有用な刊行物である。
実務家向けのテキストはすでに日本パブリックリレーションズ協会などからも刊行されているが、大学教育向けのテキストはこれまでほとんど刊行されてきておらず新著が待たれていたところでもあり、各分野に比較的バランス良く触れられている点も含めて、教育・実践貢献賞にふさわしい作品であると評価できる。
ただ惜しむらくはグローバル広報や広報倫理、コーポレート・ガバナンスなどの現代的課題と広報・PRとの関係について十分検討されていないように思われる。これらの点についても、今後ぜひ考慮いただくよう期待したい。