日本広報学会について
会長挨拶
時代の変化と「新しい広報の定義」
日本広報学会は1995年の設立以来、企業や行政、各種組織における広報のあり方を探究し、その理論と実践の融合を目指して活動してまいりました。広報学の確立と発展に貢献し、社会における広報の役割を明確にしてきたことを誇りに思います。
2023年、本学会は「新しい広報の定義」を発表いたしました。この新定義では、広報を単なる情報発信の手段ではなく、組織の経営機能の一つとして位置づけ、その戦略的意義を明確にしています。社会全体が変革を迫られる中で、この定義は時代の潮流を的確にとらえたものとして、多方面から好意的に受け止められています。
広報の戦略的重要性
グローバル化の進展、デジタル技術の飛躍的な進化、SNSをはじめとするメディア環境の変化により、企業と社会の関係性は大きく変わりつつあります。このような環境下で、広報は企業の持続的成長や社会との共創を実現するための戦略的機能となっています。世界各国の文化や価値観を踏まえたコミュニケーションの設計が求められ、グローバルスタンダードを意識した広報活動が不可欠となっています。
私が特に重視しているのは、広報における「情報開示」と「情報共有」の違いです。情報を単に公開するだけではなく、積極的に共有し、透明性を持って説明責任を果たすことこそが、社会からの信頼を得る鍵となります。私自身、BSE問題やMSG(うま味調味料)問題の対応経験においても、隠すことなく真実を伝える姿勢が、企業の信頼を守る力となったと実感しています。
経営戦略としての広報
広報・コミュニケーションは経営戦略そのものです。企業ブランドの価値を高め、社会的責任と経済的成果を両立する「クリエイティング・シェアド・バリュー(CSV)」の考え方を体現する上でも、広報の役割は極めて重要です。特にグローバル市場では、各国の文化や価値観に配慮したコミュニケーション戦略が求められます。たとえば、MSG(うま味調味料)に対する誤解を解くための活動では、科学的根拠に基づく情報発信を通じて、消費者との信頼関係の構築に努めてきました。
また、社内におけるインターナルコミュニケーションの充実も重要です。社員一人ひとりが企業のビジョンを理解し、誇りを持って行動できる環境こそが、企業の持続可能な成長に直結します。
学問領域としての広報学
近年、広報を学問領域として捉える動きも加速しています。広報学の体系化が進むことで、企業や行政の実務においてもより洗練されたアプローチが可能となります。日本広報学会は、研究者と実務家がともに知見を深め、相互に学び合う場としての価値をさらに高めていくことが求められています。
私は会長として、この貴重なプラットフォームをより一層発展させ、広報の理論と実践の融合を促進することに尽力してまいります。そして、広報が社会における持続的な価値創造の原動力となるよう、多くの皆様と共に歩んでいきたいと考えています。
本学会の活動を通じて、広報の新たな可能性を拓き、日本国内にとどまらず、グローバルな視点で企業、行政、地域社会に貢献していくことを目指してまいります。
日本広報学会へのご支援とご参加を心よりお願い申し上げます。
西井 孝明
日本広報学会 会長
(味の素株式会社 元社長)