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第16回日本広報学会賞の選考過程と講評

2021年度の日本広報学会賞は、2020年4月1日から2021年3月31日までに公開され、
自薦他薦のあった図書3点、論文6点を対象に審査を行なった。

論文6点の内訳は、「広報研究25号」に掲載されている5点と、
「企業と社会フォーラム学会誌9号」に掲載された当学会メンバーによる論文1点である。

7月14日に第1回審査委員会を開催し審査方針を確認の上、
8人の委員による作品の読み込みに入った。
8月31日までに各審査委員より評価票の提出を受け、9月1日に第2回の審査委員会を開催。
各委員が提出した評価票に基づいて慎重に討議を行った。

応募作品総数は限られていたが、広報学会としても極めて重要な課題である、
日本の広報教育に関連するものから、
広報戦略の中核的な概念を真っ向から議論・整理するものがあった。

また、各種イベントへの企業のスポンサーシップの合理性に関するものや、
企業博物館をCSR、コーポレートブランドなど幅広い視点から分析するもの、
さらには市役所による市民の協働意識に関連するものといったように多岐にわたっている。

近年、定性的な分析調査だけでなく、定量的な分析を深めた論考が増加してきているが、
しっかりと研究ステップを踏みながら、多面的な分析がなされてきている点は
本年度の応募作にも共通する傾向が見られる。

審査の結果は下記のとおりである。
中でも、「日本の大学における広報教育の現状-2019年調査の結果と考察―」の研究は、
日本の広報教育の実態と課題を深堀し、日本での広報教育・専門職の在り方までも
踏み込もうとする意欲的なものである。
今後についても、さらに学会メンバー及び、関係諸団体をも巻き込みながら、
研究が推進されることも強く期待されるとして、「優秀研究奨励賞」の授与を決定した。

なお、本受賞作そのものの評価とは別に学会賞審査委員会において、
本研究遂行の過程において本学会員に広くアンケートへの回答協力が求められたのに対し、
問題の重要性と学会および関連教育界と深くかかわるものにも拘わらず、
研究者会員からの回答が少なかったことに対し
猛省を求めたいとする意見があがったことを申し添えておきたい。

■優秀研究奨励賞
伊吹 勇亮、国枝 智樹 共著
「日本の大学における広報教育の現状 -2019年調査の結果と考察―」

本論文は、日本の大学における広報教育の現状を分析し、
課題を明らかにしようとするものである。
その狙いは、広報における教育・研究に大きな責務を負う本学会にとっても、
極めて重要かつ貴重なものである。

「広報先進国」である米国の高等教育における広報教育の位置づけを探るなど、
海外での広報教育事情にも丹念に目配りした上で実態把握の調査を行ない、
科学的に分析を行っている。

特に、「大学が提供しているもの」と「企業が求めるもの」のギャップを導き出し、
今後につながる有益な視点を提供している。
中でも「広報職の専門職化に対する取り組みを本格化させるのであれば、
現在の大学の広報教育では、社会の要請に応えることが出来ない」という結論は興味深い。

今後、この研究で用いられている米国での同種の調査の質問項目を
日本の実情に合わせて改訂した上で量的研究、インタビュー調査等の質的調査を加え、
一方で、日本の雇用制度や広報関連産業のこれまでと将来の分析を含めて
幅広く調査・研究を展開していくことが期待される。
そうすることにより、今後の広報教育、各種教育機関の在り方への
実践的な示唆をもたらす研究領域へと大きく発展する期待が持てる。
そのために、併せて、こうした研究調査への学会員の幅広い協力も強く望まれる。

■研究奨励賞
薗部 靖史、川北 真紀子 共著、
”The Prestige Effect of Sponsorship on Attitude toward Corporate Brand and Art Events”

本研究は、近年、企業イメージの改善などを期待して
芸術領域への協賛が増加傾向にあるという認識の下で、
企業のスポンサーシップ行動の合理性を明らかにしようとしている実践的研究である。

企業ブランドとアートイベントのプレスティージ(社会的評価)が,
アートイベントのスポンサーになることで,それらにどのような態度変化をもたらすのか,
そのメカニズムを定量的に検証している。

スポンサーシップによるコーポレートブランドとアートイベントとの関連性と効果について、
投資家などのステークホルダーへの説明責任を果たすことが重要であるとともに、
そのことが芸術主体と協賛企業の双方にとっても有益であるという結果を導けたことは、
クラシック音楽など経済的に苦労が多い芸術主体にとっては勇気づけられる研究成果である。

今後、①スポンサーシップの形態およびイベントの内容・性格の整理、②コーポレートブランドの定義、
③各事例において、協賛社のブランド対するインパクトの深堀りなどを経て、
更に実践的に価値ある研究に進化していくと考えられ、
今後の発展に大きな期待が持てる研究である。

■教育・実践貢献賞
吉野 ヒロ子 著
「炎上する社会―企業広報、SNS公式アカウント運営者が知っておきたいネットリンチの構造」

本著は、「炎上」という事象をしっかりと定義した上で、ネット炎上現象を実証データを交えて、
幅広い視点からわかりやすく解説している。ケースも豊富で、時間軸も広く網羅的で説得性が高い。
そして実務への示唆も多く、広報部門はもとより、経営層を含め幅広く読まれるべき著書と推奨できる。

表現としても、平易な語り口の敬体で書かれたビジネス書の体裁でありながら、
「炎上」というテーマにかかわる一般書から、WEBニュースサイト、学術文献に至るまで、
幅広い先行研究を参照しており、読み応えのある本となっている。

一般読者は豊富な「炎上」事例を読み進めることで、学びを深めることができる構成となっているが、
学術的な理論や原典に関する細にわたる内容なども丁寧に処理されており、
広報研究の専門家が読者であっても充分に示唆的な内容を含んでいる。
さらに、本著の最後部ではSNS の今後に向けた提言にまで発展的な議論を展開しており、
秀逸な著作である。